「シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その6)」をお送りします。い
つも長文で申し訳ないのですが、お時間が取れましたらお読みくださ い。もし
価値があるとお感じになりましたら、ご拡散をよろしくお願いします。
なお、911事件の11周年については、私としては昨年の10周年に作成した
次のもので十分だと思っておりますので、何も新たな文章は出しませ ん。
いま我々が 生きている虚構と神話の現代
http://doujibar.ganriki.net/evidences_abandoned_for_ten_years.html
2012年9月11日 バルセロナにて
童子丸開 拝
********************************************************
サーバーの仕様のため、サイトへのアップや変更の反映が遅れ る場合がありま
す。1~2日、お待ちください。
http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-6-not_crisis_but_swindles.html
シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その6)
*「危機」ではない!詐欺だ!*
*●小さな実例に現れるシロアリどもの手口*
全国紙プブリコが2012年7月21日付の記事で伝えた次の事実
<http://www.publico.es/439870/banez-quiere-pagar-4-7-millones-por-un-
trabajo-que-costo-2-2-en-2011>をご紹介することから 始めよう。
スペインの雇用・社会保障省(大臣はファティマ・バニェス)は6月13日
に、ある政府通達文書を印刷し全国の事務所や工場、商店、役所な どに郵送す
る作業 を民間業者に委託した。この政府通達文書とは、単に「トイレでの禁煙
徹底」を命じるだけの内容なのだが、問題はその費用である。
政府の通達文書を印刷して郵送する作業は1993年から民間業者に委託され
ているのだが、この「トイレ禁煙文書」の業務は最初は 2009年1月にある
業者が約*65万ユーロ*(約6500万円)で請け負った。ちょうど不動産バブ
ルが はじけて建設業を中心に失業が広がり不況の様相が具体的に現れ始めてい
た時期だった。
その2年後の2011年2月に、サパテロ社会労働党政府は他の業者に*全く
同じ作業に220万ユーロ*(約 2.2億円)*を支払った*。それは失業率が
20%に近づき公的債務が急上昇して社会福祉が大幅に削減さ れようとしてい
たときだった。
そしてその1年半後、大銀行を救うために血税がつぎ込まれたあげく事実上の
国家破産状態となり、公的部門の労働者が大量に解雇され公務 員のボーナス全
面カットが決定されたというときに、ラホイ国民党政府は、この*65万ユーロ
で済む作業に470万ユーロ*(約 4.7億円)*の予算を組んだ*のである。
これがこの国で行われる公金横領の手口の一端だが、一事が万事、すべてこ
の調子である。スペイン政府は一方で「カネが無い、カネが無い」 と叫んで低
賃金勤 労者の生活を滅多切りにしているのだが、その一方でこうやって多額の
公金を「行方不明」にさせる。もっとも、危険なばかりで糞の役にも立 たない
「もん じゅ」などという施設に何兆円もつぎ込み続ける日本国政府よりはまし
かもしれないが。(いやいや、「糞の役にも立たない」などと言うと糞 に叱ら
れる。人間や動物の糞は従来から人間の食生活と命を支えてきた
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/unko.html>の だ。)
これは一部の公務員による内部告発なのだが、プブリコによると、どうやら
官僚と政治家と業者の間に「禁煙」をネタにしたある種の「カルテ ル」が作ら
れてい るようだ。納税者(合法的に在住する外国人を含む)の税金にたかるシ
ロアリ集団にとっては、あらゆる名目がたかりのネタになりうる。
スペインで は2005年以来、社会労働党政権によって建築物内での喫煙の
禁止が段階を追って実施された。マスコミを動員して肺癌や受動喫煙の害を印
象付ける反タバ コ・キャンペーンに続いて、2007年に個人の住居と小規模
なレストランやバル(カフェ)を除くあらゆる建築物の内部での喫煙が法律に
よって禁止された。 そして前述のようにサパテロ政権が65万ユーロで済む作
業に220万ユーロをばら撒く直前(2011年1月)に、この禁煙法は強化さ
れ た。それによると、 個人の住居を除く全ての建築物内での喫煙が禁止され
る。ホテルだけは例外的に客室の30%までを喫煙可能にできるが、他の部屋と
厳しい基 準に従って隔離さ れていなければならない。
こうしてスペイン中で喫煙可能な場所が厳しく制限されたのだが、一方で歴代
政府による「トイレ禁煙文書」が作った「差 額」がどこに消えたのか誰も知ら
ない。法律による喫煙の制限はヒトラーのナチス政権が最初と言われるが、この
種の措置には鼻もひん曲がる 悪臭が漂う。これ に比べるとタバコの臭いなどさ
したる問題でもあるまい。
もう一つ、2012年7月24日付のエル・ムンド紙
<http://elmundo.orbyt.es/2012/07/23/elmundo_en_orbyt/1343070715.html>に
よって知らされた事実を見 てみよう。
このシリーズの(その1)
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-2-ruling_class.html>で 書い
たとおり、現スペイン国王フアン・カルロス1世の娘婿であるパルマ公イニャー
キ・ウルダンガリンは大掛かりな公金横領事件で裁判中の 身となっている。 そ
のウルダンガリンが主催するノース財団は、2005年と2006年にマジョル
カ島でスポーツ振興のためのイベントを行った。それは*そ れぞれ120万ユー
ロ*(当時のレートで2億円ほど)を使って行われ、2回分で240万ユーロの
出費だったのだが、 その資金は全てバレアレス州の公金だった。
ところが今年になってバレアレス州が同じ内容で同じ規模で行ったイベントの
費用は*わずか8万ユーロ*、 つまり*ノース財団が使った金額の15分の1*
<http://www.lavozlibre.com/noticias/ampliar/618994/baleares-hace-otro-
congreso-igual-al-de-noos-pero-15-veces-mas-barato>*だっ た*のである!
つまり、ウルダンガリンとその取り巻きグループ(国民党の地方政治家を含む)
によって使用された*公 金の15分の14*が、あれやこれやの名目を付けた請
求書と引き換えに、シロアリどもの個人資産へと消えたことにな る。この件は
現在公判中なので、ひょっとするとその一部くらいは明らかにされるのかもしれ
ない。
*●シロアリの巣・・・金融・投資機関*
いま取り上げた二つの例はほんの小さな事実に過ぎないのだが、これらを単に
個人あるいは小集団の道徳的退廃などのせいにすることは決定 的に誤ってい
る。このシリーズで明らかなように、国家と社会全体の構造に関わるものだ。*
数匹のシロアリの姿を見たならそ の付近に大規模なシロアリの巣があると確信
できる*だろう。実際に、スペインだけではなく欧州各地域には歴史的に形 成さ
れてきた巨大なシロアリの巣が存在する。これは陰謀論でも何でもなく現実であ
り、このシリーズでお目にかけたスペインのコソ泥どもの 背後には*「国境なき
大泥棒」の集団*が存在している。その点については*このシリーズの 最終回
(その7)*でもう少し詳しく述べてみたい。
2012年8月31日付のスペイン各主要紙は、*この年の**前半6ヶ月だけ
でおよそ2200億ユーロ(約22兆円)もの資金が*
<http://www.publico.es/dinero/441587/la-salida-de-capitales-de-espana-
suma-219-817-millones-hasta-junio>*スペインの銀行から引き揚げられた*こと
を報じている。これはスペイン中央銀行のデータ
<http://www.bde.es/webbde/es/estadis/infoest/a1701.pdf>によるものだが、
1月から3月ま での上四半期に逃避した資金が約970億ユーロ
<http://www.abc.es/20120531/economia/abci-salida-capitales-espana-llego-
201205311126.html>だから、それ以 降の危機の進行、特にバンキア銀行の事実
上の倒産が猛烈な資本の引き揚げを招いたことが明らかになる。エル・パイス紙
によれば
<http://economia.elpais.com/economia/2012/08/31/actualidad
/1346402710_181010.html>、前年2011年の6月末段階でス ペインの銀行の
収支バランスは約225億ユーロの黒字であり、その後*1年の間に3156億
ユーロ(約31兆5千億円)が スペインから逃げていった*。ただしこれらの数
字は、スペイン財政の破綻が明らかになって以降の資本逃避の一部に過 ぎな
い。バブル経済の最中に引っかき集められてタックスヘイブンなど国外に移送さ
れた資産を加えるなら、どれほどの資金がこの国から離れ ていったのか、想像
もつかない。
もちろん「沈むかける船」に留まる馬鹿なネズミがいるわけもないのだが、し
かし逆の側から見ると、ロクな自前の産業基盤を持たないスペ インのような国
に、これほどに大量の資金が流れ込んでいたこと自体が驚きであろう。実際に
(その1)
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-a_spiral_of_crisis.html>の
Socialist Review誌記事の訳でもご紹介したとおり、*21世紀の最初の数年
間、スペインは欧州の中でも最も熱気にあふれた投資 の場だった。*いったいど
うしてそんなことになるのか。
1990年代末ごろから、特に*2002年のユーロ導入以降*なのだが、国や
自治体は民間の土建業者と 手を組んで、まるで何かにとりつかれたように飛行
場、鉄道、高速道路、工場団地、港湾設備などの*ろくに使われもしないイ ンフ
ラの整備*にまい進した。民間業者は開発許可を簡単に手に入れて*広大な「ゴー
ストタウン」*を 作り続けた。スペインの銀行は、中小の貯蓄銀行(カハ、地方
によってはカシャ、カイシャと呼ばれる)を含めて、土木・建築工事に*資 金を
滝のようにつぎ込んだ*。その過程と結果については(その3A)
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3a-newly_constructed_gohst-
town_in_whole_Spain.html>、(その3B)
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3b-
the_end_of_the_bubble.html>でご紹介したとおりである。そのうえに*想 像を
絶する規模で公金略奪の手段とされただけの数多くのイベント*が組まれた。当
時のアスナール政権はスペインを 延々と続く「右上がり経済」の幻覚の中に放
り込み、2004年以後のサパテロ政権もまたバブル経済の掌で踊り続けた。
その間に銀行は、本来なら融資を躊躇しなければならない人々にまで、*言葉
巧みに「ばら色の生活設計」を吹き込んで頭金 なし・低金利の住宅ローンを組
ませた*。これは当時の米国でのいわゆるサブプライムローンと同様のやり口な
のだが、 住宅ばかりではなく自動車や高級家具、高級家電製品にいたるまで、*
数字に弱く無計画な人々の生活を銀行ローンが縛り付け ていった*の である。
さらに、英国人、ドイツ人、フランス人たちが、欧州の中では格段に安かったス
ペインの不動産をさかんに買いあさり、住宅価格は急 上昇した。バルセ ロナな
どの都市の集合住宅でも、「高く売れる」と分かった家主たちが賃貸しをやめて
部屋を売り物件に変えたために、貸し物件が不足し家賃 もまた高騰した。 同時
にユーロ導入時の便乗値上げと後の原油価格の上昇もあって、この間にありとあ
らゆる物価が上がり続けたのである。
そして国家と国民の全体を巻き込んだこの狂乱は、米国で起こったと同様に、
そしてかつて日本で起こったと同様に、*銀行 の大掛かりな経営破たん*を引き
起こした。そしてスペインの銀行を突っ走らせた外国資本は、*多額の 「戦利
品」を懐に収めた挙句に借用書だけを残して立ち去った*というわけである。私
の「シリーズ:515スペイン大衆反乱 15M
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spanish_5-15_movements-01.html>」
でお知らせし たように、いま人々は「シロアリの巣」がどこにあるのか気づき
始めている。
もちろんだがそれは、ポール・グレイグ・ロバーツが示したように
<http://doujibar.ganriki.net/webspain
/Bankers_have_seized_Europe.html>、*ゴー ルドマンサックスなどの金融機関
とそれを後ろ盾にする格付企業等の企業群*であり、その「窓口」*欧 州中銀と
IMF*である。スペインのマスコミの中ではわずかにプブリコ紙だけが、ゴー
ルドマンサックスを取り上げて「危機が国際企業を太らせる」と指摘
<http://www.principiamarsupia.com/2012/09/03/como-goldman-sachs-creo-
una-crisis-alimentaria-internacional/>している。(そんなマスコミがあるだ
け日本よりマシか…。)ネオリベラル経済は単なる略奪経済であるだけではな
く、日本を狙うTPPの素顔
<http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/tpp-dec7.html>からも分か
るように、*巨 大資本による世界の私的で直接的な統治*を目指すものである。
それは*法も国家も超越した権力*な のだ。EUはその格好の「餌場」と化して
しまった。そしてスペインはいまの「経済危機」を通して、いずれ隅々まで巨大
資本の私有物に成り 果てるのかもしれない。
ドイツや北欧諸国のような国家と社会に対するしっかりした理念を持たず制度
的にもスキだらけの南欧諸国が、最初にそのターゲットになっ てしまっ
た。*2007年まで散々にこの国の狂乱経済を踊らせ続けたバブルの熱病は、
国の指導者だけではなく、産業界、官 僚機構、マスコミ、学術界、そして下々
の庶民にいたるまで社会の全体に感染*し、ただでさえタガの外れた金銭感覚と
貧弱な数字感覚しか持たないスペイン人の社会を打ち砕いていった。このシロア
リどもに食い荒らされた国家を支えるものは、もはやどこにも 無いだろう。
*これはもう詐欺としか言いようがあるまい。
*
*●ただいま崩壊中の国家と社会*
2000年代になってスペインでは「にわか金持ち」が街頭にあふれた。正
確には「ちょっと財布が膨んだので金持ちの仲間入りができたと思 い込んだ貧
乏人」 と言うべきだろう。そして彼らの多くが2007年以降、見る見るうち
に貧乏人に戻っていった。しかも、給料を下げられ、あぶく銭の臨時収 入を失
い、一部は 仕事を失い、高級自家用車を手放し、10年間で1.5~2倍に上
がった物価と情け容赦も無い消費税アップを前に何を買う意欲も失い、一部 の
不幸な者たちは 家賃もローンも払えずに自宅を失い、結局は以前よりもずっと
惨めな境遇に堕ちた自分と対面せざるを得なかったのである。以前の「貧乏」と
は全く異質の貧困 が彼らを待ち構えていた。《帰ってみればこはいかに!元いた
家も村も無く・・・》。浦島太郎は日本の御伽噺だけではない。
社会福祉団体カリタスの調べによると
<http://elpais.com/diario/2011/07/07/sociedad/1309989601_850215.html>、
現在スペインでは総人口の 20.8%(およそ1000万人)が貧困層であ
り、140万世帯で家族メンバーの誰一人として職に就くことができない。加え
てそれ以外 に、約50万世帯が失業保険や緊急の政府援助などの絵支援も途絶
え全く無収入の状態に置かれている。エル・ペリオディコ紙によると
<http://www.elperiodico.com/es/noticias/sociedad/mas-dos-millones-
espanoles-pasan-hambre-diario-1043728>、 2011年7月の段階ですでに
235万人が毎日飢えを感じ、国民の46%が食生活の質と量を落としていたの
だ。2012年9月からは、 EU、欧州中銀、 IMFのトロイカの命令に基づ
いて、消費税が大幅に引き上げられた。同時に公共輸送運賃、電気代、ガス代も
値上げされた。必死に倹約と我 慢を続ける国民の 努力にも、じきに限界が訪れ
るだろう。
スペイン政府はこんな状況をもたらした元凶である銀行を「救済する」ため
に、まず*教育、つまり将来の国家を支えるべき 人材の育成を切り捨てて*い
る。2011年4月以降の1年間で教育にかける費用は21.9%も削られた
<http://www.elmundo.es/elmundo/2012/04/03/espana/1333453157.html>。さら
に基礎的な科学研究の予算も25%削減
<http://www.elmundo.es/elmundo/2012/04/03/ciencia/1333450876.html>され
た。続いて*国 民の健康な身体を支える医療を切り捨てる*。2012~13年
度の予算からは保健医療の13.7%(70億ユーロ)が消えてなくなった
<http://www.elmundo.es/elmundo/2012/04/09/espana/1334000045.html>。これ
らの数字は今後も増え続けることだろう。要するにこの国の指導者は国の未来を
捨てたのだ。*彼ら の頭にあるのは、カネだけがあって人のいない「国」*である。
2012年5月14日にスペイン第2の銀行BBVA幹部は「現在の経済危機
はリーマンブラザーズ倒産時よりも深刻だ」という
<http://economia.elpais.com/economia/2012/05/14/actualidad
/1336995907_924156.html>認 識を示した。当然だ。サブプライムローンの焦げ
付きに端を発したリーマンブラザーズ倒産は、確かに米国と欧州の経済を激しく
揺り動かした が、それでも米国 の政治と経済はそのショックを直接に国家の破
滅にまで直結させないだけの分厚さを持っていた。しかしスペインは全く異な
る。上っ面の1枚 をはいだらそこに は何も残っていない。その上っ面の1枚を
支えていた外国からの投資はいっせいに引き上げられてしまった。放っておけば
この国の債務不履行 は避けられず、そ れはユーロ圏だけではなく欧州全体の崩
壊に結びつきかねない。それを防ぐ手段として*EUはIMFと共に欧州中銀に
よるス ペインの金融機関の直接統治を推し進める*作業に努めている。
当シリーズ(その4)
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-4-
ridicule_resque_of_banks.html>で 明らかにしたとおり、2012年6月、ス
ペイン救済とユーロ崩壊への対策としてドイツのメルケルが打ち出した雇用の創
出を柱とする「成長 策」は、欧州中銀 のマリオ・ドラギとイタリア首相のマリ
オ・モンティ(ともにゴールドマンサックスの関係者)の激しい抵抗に遭って頓
挫し、スペイン政府は 「即効性」を求め て、彼らの唱える銀行への直接の救済
路線に乗った。こうして、スペイン政府は*自力の経済健全化の可能性といっ
しょに国家 の主権を投げ捨てた*のである。結果として国は分裂し、その国民は
文字通りの「棄民」と成り果てるほかにはあるま い。
スペイン国内でいまカタルーニャの独立意識が階層や党派を超えて不自然なほ
ど急激に盛り上がりつつある
<http://www.publico.es/espana/441995/el-independentismo-crece-entre-los-
partidos-y-movimientos-catalanes>。公的な医療・厚生機関への給料遅配に
陥っているカタルーニャ州政府は先日、マドリッドの中央政府に50億ユーロの
資金援助を要請した
<http://www.publico.es/espana/441465/catalunya-pide-5-023-millones-como-
rescate-y-dice-que-no-aceptara-condiciones-politicas>ば かりだ。しかしそ
れは逆にカタルーニャ人のマドリッドに対する反感を強める結果となっている。
この9月11日、「カタルーニャの日」にバ ルセロナで行われた独立要求のデ
モには、主催者発表で200万人、市交通警察の発表で150万人が集まり、
<http://www.elperiodico.com/es/noticias/diada-2012/manifestacion-diada-
barcelona-2202293>市の中心部一帯の大通りを数時間にわたって埋め尽くした。
この種のデモや集会を常に極端に過小評価する国家警察ですら 「60万人が参
加した」ことを認めざるを得なかったのだ。
カタルーニャだけではなく、スペインにある17の自治州はそれぞれに借金を
背負い財政破綻寸前の状況にあり、その多くが国の「自治体救 済基金(FLA:
Fondo de Liquidez Autono'mico)」からの資金援助を申請しなければならない
状態である。その中でマドリッド、ガリシア、ラ・リオハの3つの州は中央政府
からの資金借り入れの予定が無い
<http://politica.elpais.com/politica/2012/09/04/actualidad
/1346788531_370011.html>。つまり、今までさしたる赤字なしで州の運営を行っ
てきたということだが、なんとも腑に落ちない。バレンシアを除いて スペイン
の中で公金略奪の最も激しいと思われる地域がマドリッドとガリシアだからだ。
かつての独裁者フランシス・フランコによって最大限に権威付けられたマド
リッド州とマドリッド市は現在の国政与党国民党の牙城であり、ま たガリシア
はその フランコ、最後のフランコ政権閣僚で国民党創設に力を尽くして今年死
去したマニュエル・フラガ、そして現首相マリアノ・ラホイの出身地で ある。
歴史的にま ともな工業生産を行ったことの無いマドリッドにはスペイン中から
の税金と資金が集中する。また伝統的な1次産業と観光以外にろくな収入源 を
持たないガリシ ア州の豪華なインフラ整備が大規模な国庫補助によって支えら
れてきたことは言うまでも無い。
民族意識の高いカタルーニャ人たちの間では、工業化 の進んだカタルーニャ
の資金の多くが中央政府に吸い上げられてマドリッドやガリシアにばら撒かれ、
フランコの子分とその取り巻きどもの懐 を潤し続けている と信じる者が多い。
そして州政府が頭を下げて中央政府からの借金をお願いするような事態に、カタ
ルーニャ人たちの苛立ちは爆発寸前になっ ている。
一方、EUではバロッゾ委員長自ら、「仮定での話」という注釈つきではある
が、史上初めて「カタルーニャ独立」とその「国際的な承認」についての発言
<http://www.elperiodico.com/es/noticias/politica/bruselas-habla-
independencia-catalunya-2195069>を 行った。9月11日にはEU本部は「仮
にカタルーニャが独立したとしても、直ちにEUに加われるわけではなく、正式
な申請をしなければならない」
<http://politica.elpais.com/politica/2012/09/11/actualidad
/1347366634_518448.html>と釘を刺したのだが、それにしても、カタルーニャ独
立、つまりスペインの分裂を念頭に置いた発言であり、大いに注目さ れる。カ
タルーニャ人たちは以前からスペインからの独立に対するEUの役割に期待し、
「スペインの中のカタルーニャ」ではなく「欧州の中の独立国家カタルーニャ
<http://www.11s2012.cat/>」の声が高まる。
マドリッド政府も内心その点を非常に恐れていると見えて、国庫資金借り入れ
に際してカタルーニャ州政府が出した「政治的な条件を一切付けるな」という要
求
<http://eldiadigital.es/not/62110
/cataluna_pide_un_rescate_pero_se_niega_a_aceptar_cualquier_condicion_politica
/>に 対して、ただ「負債を減らす努力をしてくれればよい」と答えたのみだっ
た。「政治的条件」を付けたとたんに何が起こるか、中央政府は十分 に理解で
きたので ある。この状況に、いまだフランコ主義が根強く残る軍内部で激しい
危機感が起こっている。8月末にフランシスコ・アラマン・カストロ大佐 が
「カタルーニャが独立?俺の死体を乗り越えて行くがよい!」
<http://www.publico.es/espana/441620/la-independencia-de-cataluna-por-
encima-de-mi-cadaver>と 発言した。これはもしカタルーニャが独立の動きを始
めたら軍が武力で鎮圧するという意味だが、それは新たな軍事クーデターをも示
唆する発 言である。こうして経済危機は政治危機につながっていく。
おそらくいま筆者の目の前にあるのは*腐敗し崩壊していく国家の姿*なのだろ
う。バスク州でも、末期癌 のETAテロリストの釈放を求めて激しい運動が起
こり、中央政府は今までではとうてい考えられなかった柔軟な姿勢を見せ釈放を
認める方針を発表した
<http://politica.elpais.com/politica/2012/09/11/actualidad
/1347366634_518448.html>。 彼らはバスクの反発と分離の動きを心底恐れてい
るのだ。その一方でマドリッドを中心に「ラホイ政権の軟弱な姿勢」に対して
轟々たる非難の 声もまた響いてい る。さらに少数民族地域だけではなく、従来
からフランコとその末裔たちに忠実に付き従ってきたガリシアやエクストレマ
デゥーラ、アストゥ リアスなどの地域 でも、国民党政府に対する反発が強まり
与党国民党内部でも亀裂が広がりつつある。
こういった*経済的な危機から政治的な弱体化に続く道*は、ある意味で*スペ
インの「自 業自得」*なのだが、先ほども申し上げたとおり、国家の機能を破壊
し国家を通さずに直接に*その社会 全体を私物化しようとする巨大資本によって
ねじふせられた*一面もあることを忘れてはなるまい。これについては次回 に実
例を挙げてご説明しよう。
*●「死にいたる病」*
「死にいたる病」という言葉があるが、おそらくそれは「病そのもの」を指す
ものではなく、「*病根」を見ずに「症状」だ けを抑えようとする人間の愚か
さ*に ついて述べるものなのだろう。危機が叫ばれ始めて以来のスペイン政府は
「血だ!血が足りない!血が無くなる!血をくれ!」と叫び続ける病 人のよう
である。 しかしその原因が心臓にあるのか、血管にあるのか、体のどこかに開
いた傷にあるのか、それとも造血作用のほうにあるのか、…、そんなこと は全く
意識に無 い。とにかく「出血を止めなくっちゃ!」とばかりに、血液の必要な
組織や細胞に続く動脈を縛り付け栓をし、どうでもよいような小さな傷に 強力
な絆創膏をべ たべたと身動きの取れなくなるまで貼りつづけるのだが、そうす
ればするほど体中の組織と細胞に貧血状態が強まり壊死が次々と広がってい
る。ちょうどこんな 具合だ。
もちろん「血が足りない」ことを知った時点ですでに手遅れであり、緊急輸
血、つまりEUと欧州中銀による資金注入は、単なる時間稼ぎに 過ぎない。
しょせんどうあがいても助かりようが無いのだが、少なくとも、経済の「病根」
についての意識と見識を持っていたのなら、こんな 「病」に冒される ことなど
最初から無かったはずだ。日本人である筆者としては、1980年代後半以後の
日本の愚かな経験から学んでほしかったのだが…。こ うして、*手遅れになって
もなおその原因に気づかないような在り方そのものが、手遅れの事態を招いた*
の である。それがこの国の「原罪」なのだろう。(東アジアに生まれ育った私
としては、キリスト教的な「原罪」よりも、仏教の言葉を借りて 「貪・瞋・痴
(とん・じん・ち)の三毒」を言ってみたい気がするが、哲学を語るつもりもそ
んな能力も無いので止めておく。)
言ってみれば、スペイン国民と国家指導者たちはいいようにカモにされたの
だ。確かにアスナールはネオリベラル経済の信奉者でネオコン追随 者だった。
しかし 元々彼の経済政策はフランコ独裁政権時代からあったオプスデイの路線
の延長上にあり、彼は同時に強烈な国家主義者だった。米国でのネオコ ンの台
頭を見てそ の路線に擦り寄って以来そこから離れることはないのだが、いま彼
の頭の中に「偉大な統一スペイン」の姿は残っているのだろうか?
そして2000 年の総選挙で彼の国民党に絶対多数を与えたスペイン国民と
財界は、バブルがいずれ崩壊する道理すら思い浮かばず、熱病の幻覚の中で目先
の ユーロに踊らされ た挙句に全てを失った。そして再び2011年の総選挙で
国民から絶対多数を与えられたアスナールの後継者たちは、詐欺師たちによって
見捨 てられた国家の形 骸にしがみつき、欧州中銀や米国巨大資本の番頭となる
以外を考える頭脳を持たない。彼らは自分たちを選んだ国民に詐欺の被害を押し
付け、 詐欺師の側に立っ て生きる道を選んだのである。こうしてスペイン国民
の多数派は二重にカモにされてしまった。
この8月31日にスペイン政府はEUの圧力を受けて「バッドバンク」つまり
不良 債権処理のための機構を作る決定をした <http://www.publico.es/441581>
の だが、これが決定的にスペイン社会を二分化していくだろう。中小の金融機
関は整理されていくつかのメガバンクにまとめられ、さらに世界的 な金融・投
資機関 に系列化されるし、各企業はその傘下に配置されることになる。そして
その上部構造とそれを取り巻く者たちによる上流社会とそれに連なる中 流社会
が再編成さ れるだろう。そしてカモたる大多数派の人民の肩には負債のツケが
いつまでも背負わされることになる。抜け殻と化した国家機構にとって、巨 大
資本による社会 の全面的・直接的な支配の道具以外の機能は許されない。それ
はもはや国家とは呼べない代物である。国家の解体は中東やアフリカ諸国だけで
起こっているわけ でもなく、また武力を用いてのみ行われるものでもないのだ。
2000年代になってこの国を襲ったバブルの熱病以来の過程は資本と国家に
よる二重 の詐欺だった。ちょうど1980年代後半以降に日本を襲い続けてい
るものと同じようにである。スペインにもし「よみがえり」があるとすれ ば、
スペインのカ モの群れが自ら学んで賢くなるとき以外にありえないだろう。
(2012年9月11日 バルセロナにて 童子丸開)
シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体
* **(その1)スペイン:危機と 切捨てと怒りのスパイラル
【Socialist Review誌記事全訳】
* <http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-a_spiral_of_crisis.html>*
**(その2) 支配階級に根を下ろす「たか りの文化」
* <http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-2-ruling_class.html>*
**(その3-A)バブルの狂宴:スペイン中 に広がる「新築」ゴースト
タウン
*
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3a-newly_constructed_gohst-town_in_whole_Spain.html>*
(その3-B) バブルの狂宴が終 わった後は
<Spain-3b-the_end_of_the_bubble.html> (その4) 「銀行統合」
「国営化」「救 済」の茶番劇
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-4-ridicule_resque_of_banks.html>
(その5) 学校を出たらそこは暗闇
<http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-5-nightmare_after_graduation.html>
(その6) 「危機」ではない!詐欺だ!
(その7) 狂い死にしゾンビ化する国家(予定)*
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(以上、転載終わり、(その7)へつづく)
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